とある日の、とある家族、とある恋人。
いつもの日常からはじまる
雪とともにある、ものがたり。

Scene.1

インドア派の言い分

子どもがスキー教室に備えて練習に行きたいと言う。
夫も私も、寝袋のワクワクよりベッドのフカフカを愛するインドア派。 日焼け後の倦怠感と得体のしれない虫たちが嫌い。
何よりアウトドア派の「もっと外で遊ばないと !」という強引さが苦手。 もちろんスキーの道具なんて、なにもない。お金もそんなにない。 そもそも、なにを揃えればいいのか、いくらほどか、見当もつかない。
ど、ど、ど、どうしよう...行きたくない。
ないづくしだけど、子どものやる気をそぐことこそ、できない。
というわけで、私たち家族は手ぶらでファミリーパークに降り立った。 超絶さわやかなお兄さんが、「お子さんにはヘルメットが必須です」「スノボならプロテクターを」などなど、懇切丁寧に教えてくれる。 板にウェアにヘルメット、なんでも借りられるって素晴らしい !
あれ、意外とデビューできちゃうんじゃない ?
アウトドアの世界。

Scene.2

「カップル割」で誘え !

憧れの先輩とゲレンデに出かけることになった今年の冬。
正直言ってスキーにもスノボにも興味はない。あるのは先輩のみ。ぎこちない仕草で教えてくれる先輩の前で、転びながらも懸命に滑る、健気なわたしを見事に演じきる(たまにほどよく甘えながら)。
放っておけないかわいい後輩像をインプット中、仲間から声がかかる。 もう少しふたりでいたかったのにっ ! と、心のなかで毒づきながら、 会話に耳を傾ける。
「カップル割ってあるらしいよ」。
年齢、性別、真偽も問わない 2 人用のお得なリフト券。こ、これだ ! 隣でそんなのあるんだと聞いている先輩に、小さな声で話しかける。 「先輩、今度はカップル割で来ませんか、もう少し教えてほしくて」 見上げた先には、驚いて見開いた目を逸らしてとまどう先輩。 その耳が赤いのを見逃すはずもなく、小首をかしげて追いうち。
「ダメ、ですか ?」「...ダ、ダメじゃ、ないよ」
1日5組限定の カップル割。だれと使うかは あなた次第。

Scene.3

じいじの本気

よく来たね、お弁当は食べたかい、けんかはしなかった ?
駅に降り立ち笑顔で駆け寄るふたりの孫に矢継ぎ早に質問する。
娘夫婦から新幹線に乗せたとメールがきたのは 1 時間半前のこと。東京と長野なんてあっという間だと、改めて思う。仕事で忙しい娘夫婦に代わって、孫たちをスキーに連れていく。それがこの冬休みの、じいじとばあばのミッションだ。
よく晴れた日、2 年生の長男はスキーをレンタルしていざ、リフトへ。 年中の長女はばあばとそり遊び。下方で手を振っているのが見える。
へっぴり腰の長男の板に、自分の板を沿わせて一緒に滑る。離れないでね!絶対だからね!うわ、早い、すごい!じいじ、本気の滑りも見せてと言われれば調子にのらないわけがない。 膝を使ってリズムを刻み、大きく小さく美しいシュプールを描く。
「あなた、また調子に乗って...、明日に響きますよ」 ばあばのその言葉が心に深く響いたのは、翌朝のことだった。